カンガル犬を知っていますか?

前回のブログで書いたシヴァスの村ですが、いつもみんなKoy〈キョイ、トルコ語で村という意味)とだけ呼んでいるので私も同じように村と呼んでいますが、ちゃんと名前があります。
シヴァス県、カンガル群にあるアジュユルト村という小さな村です。

カンガル群は本当に過疎化の進んだ田舎なのですが、この「カンガル」という名前はトルコ人なら誰でも知っています。
と言いますのも、この地方原産のその名も「カンガル」という犬がいるんです。


トルコ以外ではあまり知られていない犬ですが、じつはとても優秀で飼い主に忠実な犬なのです。
そしてそれだけではなく、その強さはピットブルやロットワイラーと戦わせても負けないと言われているほどです。

それがどうして世界的にあまり知られていないかと言うと、体格が大きいので運動量も食欲もかなりあるためペット用として飼う人はトルコ国内では少なく、あくまでも畜護犬や軍用犬などの職業犬として育てられているだけなので、ペットショップなどには出回らないのです。


シヴァスの村にはもちろんカンガル犬がたくさんいます。
前回も途中までカンガル犬について書いていたのですが、書くことがたくさんありすぎてこれだけで一話いけてしまうなと思い、別で書くことにしました。

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夫の従妹のカンガル犬と鶏。


カンガル群にある村に限らず、シヴァスの村やそのほかの県でも家畜を飼っているところだとだいたいカンガル犬を飼っているところが多いはずです。
アジュユルト村には各世帯に数匹います。

夫は小さいころからこのカンガル犬に慣れ親しんでいるので、この犬が大好きで、私にもいつもカンガルがどんなに素晴らしい犬かを説明してきます。
今日はそんなカンガル犬のすごいところをご紹介して行きます!


まず、この犬は記憶力がかなり優れています。

アジュユルト村は今では小さい村ですが、昔はもっとたくさん人が住んでいました。
その頃からでも、各世帯で飼われているカンガル犬たちはみんな村人をきちんと覚えているんだそうです。
そして村の外から入って来る者には吠えたり攻撃したりします。
なので外からこの村に訪れる際には村人に近くまで迎えに来てもらって付き添ってもらいます。(村人が一緒にいると友達だと認識して危害を加えてこない)
もしくは犬たちが仕事(羊の護衛)に出掛けている時間を見計らって来るかのどちらかの手段を取ります。

ですが、これが子供であれば全然襲い掛かってこないそうです。
そしてこれは子供を襲うなという躾の結果ではなく、もともとこの犬に備わった性質によるものなんです。
生まれつき強いけれど子供など弱い者には優しいんですね。


カンガル犬は日中は日陰で過ごし、日が暮れて羊の放牧の時間になると羊の群れに一緒に付いていきます。
でも厳密に言うと牧羊犬ではなく護畜犬といい、群からはぐれた羊を追い立てて群れに戻したりする牧羊犬の役割よりも、羊を狙いに来るオオカミと戦うというのがカンガルの主な役割なのです。

オオカミだけでなく野生の豚も突然羊に突進して襲い掛かる場合があるそうで、そういった野生の動物たちから羊たちを守ります。

そんなカンガル犬の首には、鉄のとげとげのついた首輪がはめられています。
これは、オオカミと対決するときにまず最初にオオカミは喉元を狙って食いついてくるので、それを防ぐためなのだそうです。

群の規模にもよりますが、ひとつの羊の群れに通常数匹のカンガル犬が護衛しますが、一番勇敢で強い犬にこの首輪がつけられるそうです。鉄の首輪がついている犬がいわゆるアタッカーで、最初にオオカミと対決します。
喉元を食いちぎられるのを防ぐことさえできればカンガル犬はオオカミと互角に戦えるそうです。
体格が大きくて強いだけでなく、敏捷で勇敢な性質を持っているのです。


こうして畜護犬として重宝されているカンガル犬は村の人の生活にはなくてはならない存在です。
今では栄養バランスを考えられたドッグフードも売られているでしょうが、ペットショップなどない村では昔からカンガル専用に作られた食事(全粒小麦を水で溶いたものがベースだそうです)があって、今でもカンガルにはそれを与えるのだそうです。
そして、躾の範囲だとは思いますが、シヴァスにいるカンガル犬は人間が与えない限り肉は食べません。
つまり、そのへんの小動物を自分で捕まえて食べるようなこともありません。
村ではほとんどの家庭で鶏や七面鳥も飼育されていますので、そういった動物は自由に歩き回ることができます。

そして夏は暑く乾燥して、冬は雪深い極寒というシヴァスの土地でずっと生き抜いてきたこの犬は、少しくらい水や食料が無くても我慢して任務を遂行することができる我慢強さがあり、飼い主にもとても忠実だそうです。


ブログを書くにあたって、カンガル犬についてネット上で書かれていることを調べてみると、トルコ国内では長い間価値が見いだされずにいたものを、ヨーロッパやアメリカで人気が出たのでトルコでも最近注目されているというような記述もみかけましたが、おそらくそれはペットとしての犬の話をしているのだと思います。
当然、ずっと昔から遊牧生活を送る民族であったトルコでは、犬と人間は一緒に生きてきました。
もちろんカンガル犬は昔から重宝されて大事にされてきた犬です。
でも、それはペットとしての犬ではないので、毛艶の良さだとか体格だとかの美観的な要素ではなく、畜護犬としての才能に重点がおかれてきました。
優秀なカンガル犬を子供のうちに見つけて上手に育て上げることが牧場主にはとても大切になってきます。
そして羊を大切に育てる牧場主は、カンガル犬も大切に育てることで、犬が羊をきちんと守ってくれるのです。


例えば、夫の叔父さんは、もし羊の放牧の途中にカンガルがオオカミを仕留めた場合、すぐにその場で羊一頭をしめます。
なぜかというと、オオカミと戦ったカンガルはオオカミの毛を大量に飲み込んでしまい、それが肝臓(と言ってましたが肺の間違いかもしれません。。。)に入り込んでしまうと命にかかわるからです。
そこで、オオカミの毛を体外に排出させるために、羊のお尻のところの脂肪の塊を犬に与えるのです。
けっきょく羊を殺すのだったら、そもそもオオカミを撃退した意味が。。。?と思われるかもしれませんが、オオカミに襲われた羊はいたずらに殺されただけで終わりますが、正しい方法でしめられた羊は、ちゃんと家に持ち帰って家族でお肉として食されます。


ある時は、叔父さんのカンガル犬がオオカミを仕留めたあとにそのように羊の脂身をすぐに与え、家に帰ってからはすぐに家畜小屋の中に入れられて数日体を休めるためにドアにカギをかけられ、次の日も叔父さんは他の犬を連れて羊の群れと一緒に出発しました。

その時夫は10歳くらいで、田舎に遊びに行っていて、叔父さんが羊を連れて出ていくのを見送ったのですが、それからしばらくすると、小屋の中にいたカンガル犬が起きて、自分はもう十分回復したから僕も連れて行ってくれ!と言う感じで、簡単に窓を蹴破って急いで群れを追いかけて行ったそうです。
働き者なのか、パワーが有り余っているのか。。。
叔父さんは優秀なカンガル犬を育てるのがとても上手かったそうです。


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レックス。イラク国境近くの町で出会ったカンガル犬。


さて、もうひとつ、村で育てられるカンガル犬がペット用としての犬とかけ離れている理由は、この耳です。
本来は鼻と同じく黒く垂れた耳をしていて可愛らしいのですが、この耳は護畜犬のあかしです。
まだ小さいうちに、寒い冬の時期に切り落としてしまうのです。

というと残酷な感じがしますが、こうしておかないとオオカミと対決する際に、喉元を首輪で守られている場合はオオカミは耳を狙ってきます。
オオカミもとても賢い動物なのです。
そうやって、耳を食いちぎる目的ではありません。
オオカミに耳を狙われた犬は、下手をすると顔の皮を剥がれてしまうのです。

それを防ぐために、必ず冬の炎症を起こしにくい時期に鋭利な刃物でサッと切り落とします。


カンガル犬は護畜犬以外に軍用犬としても任務に就くことがよくあります。

そして上の写真の犬、レックスは夫が軍隊時代にイラク国境近くの駐屯地で出会った犬です。
通常軍用犬として育てられる場合は護畜犬と違って耳を切り落とすことはありません。
駐屯地にはほかの軍用犬たちもいたのですが、もちろんカンガル以外の犬種もおり、軍用犬はちゃんとお給料(といっても訓練して育てたトレーナーに支払われ、犬には餌として還元されるんですが)も支払われますし、もし任務中に不発弾や地雷を見つけることができた犬は名誉職(?)が与えられ、軍隊から解放されて一生お給料をもらいながら生活できるようになるそうです。

でもレックスは軍用犬ではありませんでした。
軍の駐屯地に住み着いた放浪カンガルだったんです。

子供のころからカンガル犬に親しんできた夫は、この耳と、昼間はずっと日陰で待機している姿を見てすぐに、もともと護畜犬だったことがわかりました。

なぜ護畜犬がこんなところにいるのかというと、犬が牧場から脱走する理由はただ一つ。
オス犬に限ってたまに起こることですが、よそから来た好みの雌犬に出会ってしまった場合、追いかけて行ってしまうそうです。。。012.gif
そして盛りの時期を二匹で草原を駆け回り仲睦まじく過ごした後は。。。
サヨウナラなのだそうです(._.)

でも、メスと楽しく過ごし、子孫を残すことに成功したオス犬は、そのまま牧場に戻ることなく新しい生活を始めるそうです。


そしてレックスが辿り着いたのが、この軍隊駐屯地でした。
ほかの軍用犬に交じっておこぼれの餌をもらい、昼間は日陰でじっとしている生活でした。

夫は一応カンガル犬には詳しかったので、この犬がひょっとすると優秀な相棒になるのではと思い、日が暮れて犬が動き出す時間に呼んでみました。
するとすぐに近くに来て、2日も一緒に過ごせばすぐに懐いて言うことをきくようになりました。
普通は犬を任務に連れていくと、もしも途中で吠えたりしたら敵に居場所がバレる危険性があるので好まれないのですが、犬の賢さを説明し、どうしてもと上司にお願いして、任務に一緒に連れていきました。
最初は上司も渋々でしたが、そのうちレックスは、危ない場所まで来ると先に行って見回りをするなど活躍するようになり、すっかり隊の一員として頼りにされるまでになりました。
もともと注意深く洞察力のあるカンガル犬の特性がここで発揮されたんですね。


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若かりし日の(?)夫とレックス


写真では、雪こそ降っていませんが、ここはかなり空気の乾燥した極寒の地域。
任務は時には厳しく、何もない山道を敵の襲来におびえながら数日間歩いて移動しなければいけない時もありました。
睡眠も、岩陰の地面に毛布にくるまって眠るだけ。
敵の急襲に備えて固まらずにみんな分かれて一人で眠らないといけないのですが、レックスは片時も夫のそばを離れなかったそうです。
ご飯も二人で分け、一枚の毛布に一緒にくるまり、軍隊時代の一番の親友といってもいいほどいつも一緒にいたのがレックスでした。


こうしてこの地域での任務は半年ほど続きました。
そして、別の駐屯地へと移る指令が来ました。
もちろんレックスも一緒に、と一緒に車に乗せて連れて行ったのですが、中継地点の大きな基地までは連れていけたのですが、その先は犬は連れていけないと言われ、そこでお別れとなりました。



それからしばらくして、夫は軍隊をやめてイスタンブールで働き始めました。
その後も軍に残った友人にレックスの消息をきくと、ずっと夫と最後に分かれた基地に住み着いていたそうです。
最後はどうなったのか、その基地で亡くなったという噂もききました。


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眠いのかな?遠くを見つめるレックス。


牧場で生れて護畜犬として育ち、雌犬とかけおちし、軍隊で第二の人生を歩んだレックス。。。
犬は人間の友達になれるって本当ですね。
猫だとこうはいかないだろうなぁ~。。。(;^_^A


でも、私は猫さんのそういうあっさりした性格も好きですけど!

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by araty2013 | 2016-09-08 01:36 | トルコ生活


Sukhumvit soi 23にあるSerendib Tearoomのオーナー姉妹のブログです!ときどき姉が、ときどき妹が、日々の生活やお店のことをチョコチョコと書いていきます。


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